イブに一人で『バック・トゥ・ザ・フューチャー』を観た話

本にしろ音楽にしろ、思い出と紐付けされたものは特別に愛着が湧くものだ。

 

 

 

中学の頃、尊敬する人におすすめされて読んだ田山花袋の『蒲団』、大学一年の頃、劣等感と孤独感で鬱屈としていた時に赴いたスキー場で延々と流れていたhump backの『生きていく』

 

 

 

心の引き出しに大事にしまってあるそれらは、ふとしたきっかけに取り出して眺めたくなる宝物である。

 

 

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21歳のクリスマスイブは、恋人はおろか家族とも過ごさない一日だった。

 

 

例年母が腕によりをかけて作るクリスマスフルコースも、帰省ができず食べられない。

 

 

 

無神論者なんだと意地を張ってみても、世間全体が浮き足立つこの特有の空気の前には全面降伏せざるを得ない。端的に言えば、寂しいのだ。

 

 

 

バイト帰りに雰囲気だけでも味わおうかと新宿を歩く。ふと、ピカデリーの前で立ち止まる。突如、「今この時間にやっている映画をなんでもいいから観る」案を思いついた。

 

 

 

 

何がやっているのかと上映スケジュールを確認する私の目に飛び込んできたのは、『バック・トゥ・ザ・フューチャー〈4Kニューマスター〉』だった。言わずと知れた超名作である。恥ずかしながら、この歳になってもついぞ観たことがなかった。観よう観ようとは思いつつも今まで遠ざけていた。というより、近づけなかった。これはわたしの考えだが、映画はそれが名作であればあるほど手を出しにくい気がする。今更感に手をこまねいてしまうからなのか、単に私が逆張り人間だからなのか。

 

 

 

 

ただしそれは、あくまで日常における話。イブという特別な日に、たまたま一人で、たまたま目に留まった映画館で、たまたま以前から気になっていた『バック・トゥ・ザ・フューチャー』を上映している。これを運命と言わずしてなんと言おう。

 

 

 

 

 

上映開始時間は15:40。現在時刻は15:45。今から行けば、間に合う。

 

 

 

 

 

 

小走りで劇場へと向かった。はやる気持ちを抑えつつ手早くチケットを買い、スクリーンへ。

 

 

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ぶれぶれですね

 

 

 

300名ほどは入るだろうと思われる劇場だっだが、客は30人に満たないくらい。人いきれでむせかえる中歩いてきたので、ほっとする。

  

 

 

 

期待感と、自分の突飛な決断への不安を抱えながら、映画は始まった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

最高でした

 

 

 

 

な、なにこの面白さ…終始わくわくしっぱなし……手に汗握りながら映画を観るなんていつぶりだろう……こんな気持ちにまだ自分がなれるだなんて……

 

 

 

今までちんけなプライドのために観てこなかった自分、愚かにも程がある……

 

 

 

映画の詳しい感想なんて書けない。何を書いても陳腐に思えてしまう気がする。でも、この興奮を誰かに伝えたい。

 

 

 

ということで今、劇中歌をかけながらこのブログを書いています。余韻が冷めないうちに、今日のことを記録しておかないとと思って。

 

 

 

 

側からみればただのクリぼっちでしたが、引き出しの宝物を一つ増やせた、私にとっては特別なクリスマスでした。